現代文読解の秘訣:具体と抽象の区別

なぜ「具体と抽象の区別」が重要なのか?

評論文や論説文では、筆者はあるテーマに対する抽象的な主張や考えを読者に伝えようとします。しかし、抽象的な話だけでは理解が難しいため、具体的な事例やデータ、比喩などを用いて説明を補強します。

読解で大切なのは、以下の点です。

  1. 筆者の中心的なメッセージである「抽象的な主張」を見抜くこと。
  2. 「具体的な説明」が、どの「抽象的な主張」を裏付けるために用いられているのか、その関連性を理解すること。

設問の多くは、この「抽象的な主張」部分の理解度を問います。具体例に目を奪われすぎず、文章全体の構造の中で筆者の真意を掴むことが重要です。

それでは、具体的な問題で見ていきましょう。

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

デジタル情報が瞬時に消費される現代において、古典文学を読むという行為は、一見すると時代錯誤的に映るかもしれない。難解な言葉遣いや、現代とは異なる価値観が描かれる具体的な作品群は、現代の若者にとって縁遠いものと感じられがちである。しかし、古典文学が長きにわたり読み継がれてきたのには、それを超える普遍的な理由が存在する。それらの作品には、時代や文化を超えて共感を呼ぶ人間の喜びや悲しみ、愛憎、葛藤といった根源的な感情や人間関係の機微が克明に描かれている。例えば、シェイクスピアの悲劇に描かれる嫉妬や権力欲、あるいは源氏物語に垣間見える複雑な恋愛模様は、現代を生きる私たち自身の内面や社会の縮図と重なり合う部分が少なくない。古典を読むという具体的な体験は、単に過去の物語を知るという以上に、人間とは何か、社会とは何かという抽象的で普遍的な問いに対する深い洞察を与えてくれる。それは、目まぐるしく変化する現代社会において、流されることなく自己の価値観を確立し、他者や世界を多角的に理解するための、時代を超えた「知恵の源泉」としての役割を担っているのである。

問1 この文章で筆者が最も強調している古典文学を読むことの現代的意義は何か。次の中から最も適切なものを一つ選びなさい。

シェイクスピアや源氏物語など、具体的な古典作品のあらすじや登場人物を正確に理解すること。

時代や文化を超えた人間の根源的な感情や関係性を理解し、現代社会や自己を見つめ直すための普遍的な洞察を得ること。

古典文学特有の難解な言葉遣いや古い価値観を学び、過去の文化に対する知識を深めること。

デジタル情報が氾濫する現代において、古典文学を読むことで精神的な安らぎや娯楽を得ること。

解答・解説

正解:イ (←選択後に表示されます)

1. 本文の分析:具体と抽象の区別

まず、本文を「抽象的な主張・考え」と「具体的な説明・事例」に分けてみましょう。

具体的な要素(古典文学の現状と内容例):
  • 古典文学を読むという行為。(具体的な行動)
  • 難解な言葉遣いや現代と異なる価値観が描かれる作品群。(古典文学の具体的な特徴・課題)
  • 現代の若者には縁遠いと感じられがち。(具体的な現状認識)
  • 例:シェイクスピアの悲劇(嫉妬、権力欲)、源氏物語(複雑な恋愛模様)。(具体的な作品と描かれる内容)
抽象的な要素(古典文学の普遍的価値と筆者の主張):
  • 古典文学が読み継がれる普遍的な理由が存在する。(抽象的な価値の存在を示唆)
  • 作品には、時代や文化を超えて共感を呼ぶ「人間の根源的な感情や人間関係の機微」が描かれている。(古典文学が持つ抽象的なテーマ)
  • 古典を読む体験は、単に過去の物語を知る(具体的理解)以上に、「人間とは何か、社会とは何かという抽象的で普遍的な問い」に対する深い洞察を与える。(古典読書の抽象的な効果・意義)
  • それは、現代社会で自己の価値観を確立し、他者や世界を多角的に理解するための「時代を超えた『知恵の源泉』」としての役割を担う。(筆者の結論・古典の抽象的な現代的価値)

構造のポイント:

筆者は、まず古典文学に対する具体的な現代の印象(縁遠い、難解)と、具体的な作品例を挙げます。「しかし」と転換し、それらが持つ抽象的で普遍的な価値(根源的感情、人間関係の機微)を提示します。そして、古典を読むという具体的な体験が、いかにして「人間とは何か」といった抽象的な問いへの洞察や、「知恵の源泉」という抽象的な価値に繋がるのかを論じ、結論付けています。

2. 設問(問1)の解説

設問は「筆者が最も強調している古典文学を読むことの現代的意義」を問うており、これは本文の抽象的な結論・主張部分に対応します。

ア シェイクスピアや源氏物語など、具体的な古典作品のあらすじや登場人物を正確に理解すること。

これは古典文学を読む上での具体的な活動の一部であり、「単に過去の物語を知るという以上に」と筆者が述べていることから、最も強調したい抽象的な意義ではありません。

イ 時代や文化を超えた人間の根源的な感情や関係性を理解し、現代社会や自己を見つめ直すための普遍的な洞察を得ること。

この選択肢は、筆者が「人間の根源的な感情や人間関係の機微が克明に描かれている」「人間とは何か、社会とは何かという抽象的で普遍的な問いに対する深い洞察を与えてくれる」「自己の価値観を確立し、他者や世界を多角的に理解するための、時代を超えた『知恵の源泉』」と述べている抽象的な現代的意義を的確に捉えています。これが正解です。

ウ 古典文学特有の難解な言葉遣いや古い価値観を学び、過去の文化に対する知識を深めること。

難解な言葉遣いや古い価値観は、古典文学の具体的な特徴として触れられていますが、筆者はそれを乗り越えた先にある普遍的・抽象的な価値を強調しています。知識を深めることも意義の一つですが、最も強調されている点ではありません。

エ デジタル情報が氾濫する現代において、古典文学を読むことで精神的な安らぎや娯楽を得ること。

精神的な安らぎや娯楽も読書の効果の一つかもしれませんが、筆者が本文で最も強調しているのは、より深い人間理解や自己省察、普遍的洞察といった抽象的な知的・精神的価値です。この選択肢は、古典文学の意義を限定的に捉えています。

3. まとめ:読解で「具体と抽象」をどう意識するか

「一見すると~しかし~」の構造に注意:

筆者が具体的な表面的な印象や一般的な見解を述べた後、「しかし」で転換し、その奥にある本質的・抽象的な意義を論じ始めるパターンです。

具体例が示す抽象的なテーマを掴む:

シェイクスピアや源氏物語といった具体的な作品例は、「人間の根源的な感情」や「複雑な人間関係」といった抽象的で普遍的なテーマを例証するために挙げられています。

「単に~以上に」「~こそが」といった強調表現を見つける:

これらの表現は、筆者が具体的なレベルから抽象的なレベルへと議論を深め、本当に伝えたい核心を強調する際によく使われます。

結論部分の抽象的なキーワード(「知恵の源泉」など)に注目する:

筆者が最後に用いる比喩表現や抽象度の高い言葉は、その主張の本質的な価値を象徴していることが多いです。

具体的な文学作品やその内容の理解から、筆者がそれらを通じてどのような普遍的で抽象的な人間観や社会観を導き出そうとしているのかを読み解くことが、文学評論の読解では大切です。

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