「筆の跡を『ならひ』、人の振りを『ならふ』。古人の知恵や習慣は、模倣から始まるのです」
📖 意味と用法
ならふは、ハ行四段活用の動詞で、経験を繰り返すことによって何かを身につけることを広く指します。
- 慣れる、なじむ、慣れ親しむ: ある状態や環境、人などに繰り返し接することで、違和感がなくなること。現代語の「慣れる」に最も近い意味です。
- 学習する、学ぶ、まねる、練習する: 手本を見てまねたり、教えを受けたりして知識や技術を習得すること。「学ぶ」の古い形とも言えます。
文脈から、「環境や人に慣れる」のか、「知識や技術を学ぶ」のかを区別することが大切です。
慣れる の例
かかる所に住みならふ。(源氏物語)
(このような所に住み慣れる。)
学習する の例
古きをならひ、新しきを知る。(論語)
(古いことを学び、新しいことを知る。)
🕰️ 語源と歴史
「ならふ」の語源は、動物が人に「馴れる(なれる)」や、物が平らに「均される(ならされる)」ことと関連があると考えられています。繰り返し同じ刺激を受けることで、角が取れてなじんでいく様子が元になっています。そこから、環境や人に「慣れる」、さらには反復練習が必要な「学習」へと意味が広がりました。
📝 活用形と派生語
「ならふ」の活用(ハ行四段活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | ならは |
連用形 | ならひ |
終止形 | ならふ |
連体形 | ならふ |
已然形 | ならへ |
命令形 | ならへ |
派生語
- ならひ (名詞) – 習慣、ならわし、学習、学問。
幼き頃のならひ
🔄 類義語
慣れる
学習する
↔️ 反対の概念
「慣れる」の反対は「疎んじる」、「学ぶ」の反対は「知らない」などが考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
書をならふ人。(徒然草)
【訳】書道を学習する人。
見ならはぬ鳥の、声をかしきが鳴く。(土佐日記)
【訳】見慣れない鳥で、声が趣深いのが鳴く。
人の振りをならひて、歌を詠む。(古今和歌集仮名序)
【訳】人のやり方をまねて、歌を詠む。
いかで月の出づるをまちて帰らむと、物を言ひてならす。(伊勢物語)
【訳】なんとかして月の出るのを待って帰ろうと、話をして(相手を)慣れ親しませる。
都のてぶりを忘れ、鄙びたる有様にならひにけり。(源氏物語)
【訳】都風のやり方を忘れ、田舎じみた様子に慣れてしまった。
📝 練習問題
傍線部の「ならふ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 聞きならはぬ声のすれば、誰ならむと問ふ。
解説:
声について述べているので、「聞き慣れない」声がすると訳すのが適切です。「ならはぬ」は未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。
2. 唐の道をならはむとて、唐に渡る。
解説:
「唐の道」とは中国の学問や文化のこと。「学ぼう」として中国に渡ると解釈します。「ならはむ」は未然形+意志の助動詞「む」。
3. この寺に久しく住みならひて、都も恋しからず。
解説:
寺に長くいた結果、都が恋しくなくなったという文脈なので、「住み慣れて」と訳すのが適切です。「ならひ」は連用形。
4. 師の筆の跡をならふ。
解説:
師匠の筆跡を「まねて書く」、つまり手習いをするという意味です。学習する意から解釈します。
5. 世のありさまを見ならひ、物の理を知る。
解説:
世の中の様子を「見習い」、物事の道理を知る、という文脈です。「見て学習し」という意味になります。