古文単語解説:たのむ(頼む)

たのむ (動詞・四段/下二段)

【四段】あてにする・期待する
【下二段】あてにさせる・期待させる

活用の種類で意味が変わる最重要単語!誰が誰に期待しているのかが鍵。

「『頼む』と言われたから『頼み』にしたのに…。四段と下二段のすれ違いは、人間関係の悲劇を生む!?」

📖 意味と用法

たのむ は、活用の種類によって意味が全く異なるため、文法的な識別が不可欠な動詞です。

  1. 【マ行四段活用】あてにする、頼りにする、期待する: 主語が何かを「あてにする」側の意味になります。現代語の「頼む」に近いですが、「頼りにする」というニュアンスが強いです。
  2. 【マ行下二段活用】あてにさせる、頼りにさせる、期待させる: 主語が誰かに「あてにさせる」側の意味になります。「(私があなたを)あてにさせますよ」→「(あなたのために)私が引き受けましょう」というニュアンスです。

識別のポイントは、直後の助動詞や活用形です。例えば、未然形に接続する助動詞「ず」を付けてみて、「たのま(-a-)ず」となれば四段、「たのめ(-e-)ず」となれば下二段と判断できます。

四段「あてにする」の例

春の夜の夢の浮橋とだえして峰にわかるる横雲の空をぞ常にたのむめる。(源氏物語)

(…空をいつも頼りにしているようだ。)

下二段「あてにさせる」の例

「我をたのめて来よ」と仰せ給ふ。(竹取物語)

(「私をあてにさせて(私を頼りにして)来なさい」とおっしゃる。)

📝 活用形

マ行四段活用

活用形 語形
未然形 たのま
連用形 たのみ
終止形 たのむ
連体形 たのむ
已然形 たのめ
命令形 たのめ

マ行下二段活用

活用形 語形
未然形 たのめ
連用形 たのめ
終止形 たのむ
連体形 たのむる
已然形 たのむれ
命令形 たのめよ

🔄 関連語

たのもし

形容詞ク活用。「頼もしい」「期待できる」という意味。

たのめし

形容詞ク活用。「あてにさせられることだ」「期待させられることだ」という意味。使われる頻度は低い。

↔️ 反対の概念

「あてにする」の反対は「あてにしない」「見捨てる」など、「あてにさせる」の反対は「期待を裏切る」といった意味の言葉になります。

うらむ (恨む、嘆く)
すつ (見捨てる)

📝 練習問題

傍線部の「たのむ」の活用の種類と現代語訳の組み合わせとして最も適切なものを選んでください。

1. はじめより我はとたのみて来しものを(伊勢物語)

四段・あてにして
下二段・あてにさせて
四段・依頼して
下二段・依頼させて

解説:

「たのみ」は連用形です。四段活用の連用形は「たのみ」、下二段は「たのめ」なので、これは四段活用。訳は「(あなたを)あてにして」となります。

2. いとどしく虫の音しげく、たのむ方もなき心地するに、(源氏物語)

下二段・あてにさせる
四段・依頼する
四段・あてにする
下二段・依頼させる

解説:

「たのむ方(頼りになる人、手段)」という形で体言に続いているので、連体形です。四段・下二段ともに終止形と連体形は「たのむ」ですが、文脈から「頼りにする手段もない」という意味なので、四段活用と判断できます。

3. 長き契り、必ず果たし遂げむと、かへすがへす契りてたのめしかば、(更級日記)

四段・あてにした
四段・依頼した
下二段・あてにさせた
下二段・依頼させた

解説:

「たのめ」は已然形または連用形です。直後に過去の助動詞「き」の已然形「しか」が来ているので、この「たのめ」は連用形です。下二段活用の連用形が「たのめ」なので、訳は「あてにさせたので」となります。

4. 後のわざなど、ことのついでにたのむ。(徒然草)

四段・頼んでおく
下二段・あてにさせる
四段・あてにする
下二段・期待させる

解説:

文末の終止形です。「後のわざ(死後の仏事)」を「ことのついでに頼んでおく」という文脈です。現代語の「頼む」に最も近い意味で、四段活用です。

5. かの国守、それをたのめて、守り戦ふべきなり。(徒然草)

四段・あてにして
四段・依頼して
下二段・あてにさせて
下二段・依頼させて

解説:

「たのめ」は連用形です。「て」に続いているので、四段「たのみ」か下二段「たのめ」かを見分けます。ここでは「たのめ」なので下二段活用。「国守がそれを(人々に)あてにさせて、守り戦うべきだ」という意味になります。

古文単語「たのむ」クイズゲーム(選択問題編)

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