「『勝つまじ』と思えば意志、『勝つまじ』と見れば推量。主語が誰かで意味が変わる、心の動きを読むべし」
📖 意味と用法
助動詞「まじ」は、動詞や助動詞の終止形(ラ変型には連体形)に接続し、推量の助動詞「む」の打消に相当する、非常に多くの意味を持ちます。
- 打消推量(〜ないだろう、〜そうにない): ある事態が起こらないだろうと推量する。主語が三人称のことが多い。
- 打消意志(〜するつもりはない、〜まい): 話し手が「決して〜しない」という強い意志を示す。主語が一人称のことが多い。
- 不可能(〜できそうにない、〜できないだろう): あることが実現不可能だと判断する。
- 不適当・打消当然(〜べきではない、〜はずがない): ある行為が適切でない、当然すべきでないと判断する。
- 禁止(〜するな、〜てはならない): 相手の行動を強く禁止する。主語が二人称のことが多い。
主語が誰か(一人称・二人称・三人称)と、文脈(会話文か地の文かなど)によって意味を判断するのが基本です。
打消意志の例
今は帰りまじ。(伊勢物語)
(今はもう帰るつもりはない。)
禁止の例
この木な切りそ。…切るまじきぞ。(徒然草)
(この木を切るな。…切ってはならないぞ。)
📝 活用形
「まじ」の活用(形容詞シク活用型)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | (まじく) |
連用形 | まじく |
終止形 | まじ |
連体形 | まじき |
已然形 | まじけれ |
命令形 | (なし) |
※未然形は「まじくはあら」の形で現れることがありますが、単独ではほとんど用いられません。
📝 練習問題
傍線部の「まじ」の意味として最も適切なものを選んでください。
1. 人のものを盗むまじきこと。(古今著聞集)
解説:
人のものを盗むことは「べきではない」という、道徳的な判断を示しています。したがって「不適当・打消当然」の意味になります。
2. 二度とこの門に入るまじ。(平家物語)
解説:
主語は省略されていますが、「私」が「二度とこの門に入るつもりはない」と決意している場面です。したがって「打消意志」が適切です。
3. 今日は都へ入るまじき日なり。(土佐日記)
解説:
陰陽道などの占いで、今日は都に入る「べきではない」日である、という意味です。したがって「不適当」が正解です。
4. ただ一度に逢ひ見ては、また逢ふことまじ。(和泉式部日記)
解説:
一度会っただけでは、もう二度と会うことは「ないだろう」という、将来に対する推量を表しています。したがって「打消推量」が適切です。
5. 「はや舟に乗れ。日暮れぬ。…少しもな留まりそ」とて、留まるまじきなり。(土佐日記)
解説:
前の文で「な留まりそ(留まるな)」と命令していることから、この「まじき」は「留まってはならない」という強い「禁止」の意味で使われています。