古文単語解説:まじ

まじ (助動詞)

①打消推量 ②打消意志 ③不可能
④不適当・打消当然 ⑤禁止

推量「む」の打消バージョン。多彩な意味を持つ否定のエキスパート。

「『勝つまじ』と思えば意志、『勝つまじ』と見れば推量。主語が誰かで意味が変わる、心の動きを読むべし」

📖 意味と用法

助動詞「まじ」は、動詞や助動詞の終止形(ラ変型には連体形)に接続し、推量の助動詞「む」の打消に相当する、非常に多くの意味を持ちます。

  1. 打消推量(〜ないだろう、〜そうにない): ある事態が起こらないだろうと推量する。主語が三人称のことが多い。
  2. 打消意志(〜するつもりはない、〜まい): 話し手が「決して〜しない」という強い意志を示す。主語が一人称のことが多い。
  3. 不可能(〜できそうにない、〜できないだろう): あることが実現不可能だと判断する。
  4. 不適当・打消当然(〜べきではない、〜はずがない): ある行為が適切でない、当然すべきでないと判断する。
  5. 禁止(〜するな、〜てはならない): 相手の行動を強く禁止する。主語が二人称のことが多い。

主語が誰か(一人称・二人称・三人称)と、文脈(会話文か地の文かなど)によって意味を判断するのが基本です。

打消意志の例

今は帰りまじ。(伊勢物語)

(今はもう帰るつもりはない。)

禁止の例

この木な切りそ。…切るまじきぞ。(徒然草)

(この木を切るな。…切ってはならないぞ。)

📝 活用形

「まじ」の活用(形容詞シク活用型)

活用形 語形
未然形 (まじく)
連用形 まじく
終止形 まじ
連体形 まじき
已然形 まじけれ
命令形 (なし)

※未然形は「まじくはあら」の形で現れることがありますが、単独ではほとんど用いられません。

📝 練習問題

傍線部の「まじ」の意味として最も適切なものを選んでください。

1. 人のものを盗むまじきこと。(古今著聞集)

不適当
打消推量
打消意志
不可能

解説:

人のものを盗むことは「べきではない」という、道徳的な判断を示しています。したがって「不適当・打消当然」の意味になります。

2. 二度とこの門に入るまじ。(平家物語)

打消推量
不可能
禁止
打消意志

解説:

主語は省略されていますが、「私」が「二度とこの門に入るつもりはない」と決意している場面です。したがって「打消意志」が適切です。

3. 今日は都へ入るまじき日なり。(土佐日記)

不適当
打消推量
打消意志
不可能

解説:

陰陽道などの占いで、今日は都に入る「べきではない」日である、という意味です。したがって「不適当」が正解です。

4. ただ一度に逢ひ見ては、また逢ふことまじ。(和泉式部日記)

打消意志
不適当
打消推量
禁止

解説:

一度会っただけでは、もう二度と会うことは「ないだろう」という、将来に対する推量を表しています。したがって「打消推量」が適切です。

5. 「はや舟に乗れ。日暮れぬ。…少しもな留まりそ」とて、留まるまじきなり。(土佐日記)

打消推量
打消意志
禁止
不可能

解説:

前の文で「な留まりそ(留まるな)」と命令していることから、この「まじき」は「留まってはならない」という強い「禁止」の意味で使われています。

助動詞「まじ」クイズゲーム(選択問題編)

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