「桐壺の更衣の『おぼえ』は、他の女御たちの嫉妬の的。その寵愛の深さが、物語の始まりだった」
📖 意味と用法
おぼえ は、動詞「おぼゆ(思われる)」の連用形が名詞化したもので、他者からの評価や寵愛を指すことが多い、非常に重要な単語です。
- 評判、人望、信望: 世間一般からの評価や人々の信頼を指します。
- (帝などの)寵愛、信任: 特に目上の人、中でも帝からの寵愛を指す場合が最も重要です。この意味で使われることが非常に多いです。
- 記憶、感覚、自信: 「思うこと」から、記憶や物事の分別、自信といった内面的な意味で使われることもあります。
文脈、特に誰からの「おぼえ」なのかを正確に読み取ることが鍵です。「御おぼえ」とあれば、ほぼ②の「ご寵愛」の意味になります。
「寵愛」の例
いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。…御おぼえもはなやかなるに、(源氏物語)
(それほど高貴な身分ではない方で、際立って帝のご寵愛を受けていらっしゃる方がいた。…ご寵愛も華やかで、)
「評判」の例
おぼえ悪しからじ。(徒然草)
(評判は悪くないだろう。)
📝 練習問題
傍線部の「おぼえ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. この大臣の御おぼえ、時のきらにて、…(大鏡)
解説:
「この大臣」に対する帝からの評価を指しています。「時のきら(その時代の権勢家)」とあることからも、帝からの「ご寵愛」が絶大であったことがわかります。
2. おぼえいとほしく、ものの心知りて、(源氏物語)
解説:
「いとほし(気の毒だ、かわいい)」と感じさせ、「ものの心を知っている」という文脈です。これは、その人の「人望」が厚いことを示しています。
3. われ、物おぼえせず。(徒然草)
解説:
「私は、物事を記憶していない(覚えていない)」という意味です。③の「記憶」の意味で使われています。
4. おぼえある人の、とみのこととて、(枕草子)
解説:
「寵愛を受けている人」が、急な用事だと言って、という意味です。文脈上、帝や中宮などからの寵愛を指していると考えられます。
5. おぼえのために、よからぬことどもを、人のためにするなり。(徒然草)
解説:
世間からの「評判」のために、良くないことを人のためにするのだ、という人間の性質を述べた部分です。①の「評判」が適切です。