「門の前で入るのを『やすらひ』、木陰でしばし『やすらふ』。一歩を踏み出す前には、ためらいも休息も必要だ」
📖 意味と用法
やすらふ は、ハ行四段活用の動詞で、行動を一時的に中断する様子を表します。
- ためらう、躊躇する、ぐずぐずする: どうしようかと決心がつかず、行動に移れないでいる様子。心の中で立ち止まっている状態です。
- 立ち止まる、とどまる、休憩する: 実際にその場で歩みを止めたり、休んだりする様子。物理的に立ち止まっている状態です。
文脈から、心理的なためらいなのか、物理的な休息なのかを判断することが大切です。多くの場合、その後の行動(入る、行くなど)に繋がる前段階として描かれます。
「ためらう」の例
門にやすらひて、入りもやらず。(源氏物語)
(門のところでためらって、入ることもできず。)
「立ち止まる」の例
しばしやすらひて、ものを思ひつづくるに、(更級日記)
(しばらく立ち止まって、物思いにふけっていると、)
📝 活用形
「やすらふ」の活用(ハ行四段活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | やすらは |
連用形 | やすらひ |
終止形 | やすらふ |
連体形 | やすらふ |
已然形 | やすらへ |
命令形 | やすらへ |
📝 練習問題
傍線部の「やすらふ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. いかで渡らむと思ひやすらふほどに、舟来たり。(大和物語)
解説:
「どうやって(川を)渡ろうか」と思案し、決心がつかずにいる様子です。したがって「ためらっている」が最も適切です。
2. しばしやすらひて、ありさまを見るに、(徒然草)
解説:
「しばし(しばらくの間)」という言葉とともに、その場の様子を見るために行動を止めている状況です。「立ち止まって」と訳すのが最も自然です。
3. 答へもせでやすらふを、なほ問ひければ、(源氏物語)
解説:
返事もせずに、どう答えようかと迷っている様子です。心理的なためらいを表しているので、「ためらっている」が適切です。
4. 日暮るるまでやすらひて、なほ帰るさへ知らぬ、(伊勢物語)
解説:
日が暮れるまで、その場にとどまって「ぐずぐずして」、帰り道さえわからない、という状況です。②の「とどまる」に近い意味です。
5. やすらはで寝なむものを。(古今和歌集)
解説:
訪れてきた男に対して、女が「ためらわないで(早く家に入って)寝てしまえばよいものを」と詠んだ歌です。男を待つ女の気持ちが表れています。