古文単語解説:あやなし

あやなし (形容詞・ク活用)

①わけがわからない・筋が通らない ②つまらない・無意味だ ③(連用形)むやみに

「文(あや)無し」が語源。物事の道理や筋道が見えない状態。

「理屈に合わぬが人の常。『あやなし』と思うことこそ、世の理(ことわり)かもしれない」

📖 意味と用法

あやなし は、ク活用の形容詞で、「文(模様・道理)」がない状態、つまり物事の筋道や理由が立たないことを表す言葉です。

  1. わけがわからない、筋が通らない、道理に合わない: 中心的な意味。相手の言動や事態が理解できず、理不尽だと感じる様子。
  2. つまらない、無意味だ、面白みがない: 道理に合わないことから転じて、価値がなく、つまらないという意味でも使われます。
  3. (連用形「あやなく」で)むやみに、わけもなく: 副詞的に用いられ、理由もなく程度が甚だしいことを表します。

文脈から、何が「道理に合わない」のかを考えることが重要です。多くの場合、話し手の不満や非難の気持ちが含まれています。

「筋が通らない」の例

あやなしや、などて君の来まさぬ。(古今和歌集)

(道理に合わないことだ、どうしてあなたは来てくださらないのか。)

「むやみに」の例

あやなくあだなるものに心を尽くす。(源氏物語)

(むやみにはかないものに心を尽くす。)

📝 活用形

「あやなし」の活用(形容詞ク活用)

活用形 語形
未然形あやなく(は)
連用形あやなく / あやなう
終止形あやなし
連体形あやなき
已然形あやなけれ
命令形(あやなかれ)

📝 練習問題

傍線部の「あやなし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. あやなきことに心を尽くすも、愚かなり。(徒然草)

つまらない
わけがわからない
むやみな
筋が通らない

解説:

「愚かなり(愚かだ)」とあることから、価値のないこと、つまり「つまらない」ことに心を尽くすのは愚かだ、という意味になります。②の用法です。

2. あやなく人を憎むは、いかがはせむ。(源氏物語)

つまらなく
筋が通らず
わけもなく
無意味に

解説:

連用形「あやなく」が動詞「憎む」を修飾しています。「わけもなく」人を憎むのは、どうしようもない、という意味です。③の用法です。

3. あやなしと聞く人もあらむ。(源氏物語)

つまらない
わけがわからない
むやみだ
無意味だ

解説:

(私の言っていることを)「わけがわからない」と聞く人もいるだろう、という意味です。①の用法です。

4. あやなけれども、いとほしと思ふ。(堤中納言物語)

つまらないけれども
むやみだけれども
理不尽だけれども
無意味だけれども

解説:

「あやなけれ」は已然形です。(相手の仕打ちは)「理不尽だけれども」、かわいそうに思う、という意味です。①の用法です。

5. あやなくも来にけるかな。(後撰和歌集)

つまらなく
わけもなく
筋が通らず
無意味に

解説:

「わけもなく」来てしまったことだなあ、という詠嘆です。来てはいけない場所に来てしまった後悔や、思わず来てしまったという気持ちを表しています。③の用法です。

古文単語「あやなし」クイズゲーム(選択問題編)

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