「約束に『たがふ』、期待に『たがふ』。人の心はすれ違うもの」
📖 意味と用法
たがふ は、ハ行四段活用の動詞で、現代語の「違う」とほぼ同じ意味ですが、より広いニュアンスで使われます。
- 違う、食い違う、一致しない: 二つの物事が同じでない状態。
- 背く、従わない、約束を破る: 命令や約束、期待などに従わないこと。
- すれ違う、出会わない: 行き会うはずの人と会えずに終わること。
何と何が「違う」のか、何に「背く」のかを文脈で明らかにすることが重要です。特に②の「約束を破る」という意味は頻出です。
「背く」の例
約束たがはば、…(伊勢物語)
(もし約束に背いたならば、…)
「違う」の例
人の心、秋の空とは、よくも言ひたるものかな。…言ひ出でつることもたがひにけり。(和泉式部日記)
(人の心は秋の空だとは、よく言ったものだなあ。…言い出したことも(以前とは)違ってしまった。)
📝 活用形
「たがふ」の活用(ハ行四段活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | たがは |
連用形 | たがひ |
終止形 | たがふ |
連体形 | たがふ |
已然形 | たがへ |
命令形 | たがへ |
📝 練習問題
傍線部の「たがふ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 散々に射けれども、鎧よければ、たがふことなく射通さず。(平家物語)
解説:
さんざん矢を射たけれども、鎧が良いので、「間違う」ことなく(=的を外すことなく)射通すことができない、という意味です。「たがふ」には「的が外れる」という意味もあります。
2. 昔のよしみを思ひ出でて、たがはず来たり。(伊勢物語)
解説:
昔の親交を思い出して、(かつての約束どおり)「約束を破らず」にやって来た、という意味です。②の用法です。
3. 行きたがひて、つひに会はずなりにけり。(大和物語)
解説:
「行き」という動詞と複合して、「すれ違って」しまい、とうとう会えなくなってしまった、という意味です。③の用法です。
4. 世の常の人の心にたがひて、けにくき人になむ。(源氏物語)
解説:
普通の人の心とは「違って」、憎らしい人である、という意味です。①の用法です。
5. 親の言にたがふことこそ、まことの不幸なれ。(方丈記)
解説:
親の言うことに「背く」ことこそ、本当の不幸である、という教訓です。②の用法です。