「帝のもとへ『まうづ』、寺社へ『まうづ』。どちらも尊い場所へ向かう、へりくだった心」
📖 意味と用法
まうづ は、ダ行下二段活用の動詞で、「行く」「来」の謙譲語として使われます。動作の向かう先の人物や場所を高める働きをします。
- 参上する: 帝や上皇、貴族など、高貴な人のもとへ行く・来ることをへりくだって言う表現です。
- 参詣する: 寺社や霊場など、神聖な場所へお参りに行くことをへりくだって言う表現です。
行き先が「貴人のもと」か「寺社」かによって訳し分けるのが基本です。同じ謙譲語の「まかる」が「退出する」という意味が中心なのに対し、「まうづ」は「参上する」という向かっていく動作を表します。
「参上する」の例
宮にはじめてまうでたる夜、(枕草子)
(中宮様のもとへはじめて参上した夜、)
「参詣する」の例
石山にまうでたらむこそ、よく侍らめ。(更級日記)
(石山寺に参詣したとしたら、きっとよいでしょう。)
📝 活用形
「まうづ」の活用(ダ行下二段活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | まうで |
連用形 | まうで |
終止形 | まうづ |
連体形 | まуづる |
已然形 | まуづれ |
命令形 | まうでよ |
📝 練習問題
傍線部の「まうづ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 薬師仏の作らせ給へる、御嶽にまうでて拝み奉る。(更級日記)
解説:
「薬師仏」や「御嶽」という言葉から、行き先が寺社であることがわかります。したがって「参詣し」が適切です。
2. 宮仕への本意深く、常にまうでむと思ふ。(徒然草)
解説:
「宮仕へ(宮中での奉公)」について述べているので、行き先は宮中です。したがって「参上しよう」が適切です。
3. 賀茂へまうで給ふとて、…(大和物語)
解説:
「賀茂」は賀茂神社を指します。神社へ行くことなので「参詣なさる」が適切です。主語が身分の高い人なので尊敬語「給ふ」がついています。
4. 丑の時にまうで給ひて、…(平家物語)
解説:
「丑の時」は、いわゆる「丑の刻参り」の時間帯です。文脈上、貴船神社へ参る場面なので「参詣なさって」が適切です。
5. 親王のもとには、まうでざりけり。(伊勢物語)
解説:
行き先が「親王のもと」という高貴な人の場所なので、「参上しなかった」が適切です。