「人の『たより』、文の『たより』、風の『たより』。何かを頼り、機会をうかがうのが人の世の常」
📖 意味と用法
たより は、動詞「頼る」の連用形が名詞化したもので、頼りになるものを幅広く指す多義語です。現代語の「便り(手紙)」は意味の一部にすぎません。
- 頼れるもの、よりどころ、縁故、つて: 人や物など、頼みとできるものを指します。
- 機会、ついで、きっかけ: 何かをするのに都合のよい機会を指します。
- 手段、方法: 目的を達成するための方法を指します。
- 配置、具合、風情: 物事の配置や、ものの様子の良し悪しを指すこともあります。
「頼りになるもの」という中核の意味から、文脈に応じて「人・縁故」「機会」「手段」などと訳し分けることが重要です。
「縁故」の例
たよりなき人のためには、…(徒然草)
(頼るべき縁故のない人のためには、…)
「機会」の例
花のたよりなどを、…(源氏物語)
(桜の花の咲いた機会などを利用して、…)
📝 練習問題
傍線部の「たより」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. たよりを求めて、文をやる。(伊勢物語)
つて
機会
手段
手紙
解説:
手紙を届けてくれる人や方法、つまり「つて」を探して手紙を送る、という意味です。①の用法です。
2. これをたよりにて、かの国に行かむ。(竹取物語)
縁故
きっかけ
手段
手紙
解説:
これを「きっかけ」として、あの国へ行こう、という意味です。②の用法です。
3. 学問は、ただたよりなく、ひとりある人のする事なり。(徒然草)
機会
手段
頼るもの
手紙
解説:
学問は、他に「頼るもの」がなく、孤独な人がするものだ、という筆者の考えです。①の用法です。
4. 風のたよりに、かの人の声、かすかに聞こゆ。(源氏物語)
縁故
機会
つて
手紙
解説:
風が吹いてくるという「つて」で、あの人の声がかすかに聞こえる、という意味です。「風の便り」という現代語の語源にもなっています。
5. たよりごとに、物を言ひおこせたり。(更級日記)
縁故があるたびに
機会があるたびに
手段があるたびに
手紙があるたびに
解説:
「機会があるたびに」、手紙などをよこした、という意味です。②の用法です。