「物語の続きが『ゆかし』、あの人のことが『ゆかし』。心が惹かれる先に、知りたいという欲が生まれる」
📖 意味と用法
ゆかし は、シク活用の形容詞で、対象への強い興味や関心、憧れの気持ちを表します。語源は動詞「行く」で、心が対象の方へ「行ってしまう」というニュアンスが元になっています。
- 見たい、聞きたい、知りたい: 最も重要な意味。まだ見ぬもの、聞こえぬ音、知らぬ事柄に対して、それを体験したい、理解したいと強く思う気持ち。
- 心ひかれる、慕わしい、なつかしい: 人や物事に対して、心が惹きつけられる様子。上品で奥ゆかしい魅力に対して使われることが多いです。
何に対して「ゆかし」と思っているのか、その対象(人・物・事柄)を文脈から見つけることがポイントです。「〜がゆかし」で「〜を知りたい」と訳すのが基本です。
「知りたい」の例
山のあなたはいかにかあらむと、ゆかしく思ふ。(徒然草)
(山の向こうはどのようであろうかと、知りたいと思う。)
「心ひかれる」の例
ゆかしき御声に、人々耳立てて、(源氏物語)
(心ひかれるお声に、人々は聞き耳を立てて、)
📝 活用形
「ゆかし」の活用(形容詞シク活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | ゆかしく(は) |
連用形 | ゆかしく / ゆかしう |
終止形 | ゆかし |
連体形 | ゆかしき |
已然形 | ゆかしけれ |
命令形 | (ゆかしかれ) |
📝 練習問題
傍線部の「ゆかし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. いかが見給ひけむ、ゆかしう思す。(源氏物語)
解説:
(光源氏が)どのように(継母の藤壺を)ご覧になったのだろうか、その藤壺のことをもっと「知りたく」お思いになる、という文脈です。①の意味です。
2. 昔の物語などを、あまた見せ給ふに、…いとゆかし。(更級日記)
解説:
物語を見せてもらった作者が、その続きを「読みたくてたまらない」という気持ちを表しています。「見たい・知りたい」という①の意味が最も適切です。
3. 梅の香のゆかしきに、たづね入りたる心地して、(源氏物語)
解説:
梅の香りが上品で「心ひかれる」ので、その香りに誘われて尋ね入ったような気持ちがして、という意味です。②の用法です。
4. 人の文見れば、ゆかしくて、(枕草子)
解説:
他人の手紙を見ると、その「内容を知りたくて」たまらなくなる、という好奇心を表しています。①の用法です。
5. ゆかしき折には、あらぬよしなき者の名乗りして、(徒然草)
解説:
(人に)「会ってみたい」と思うような機会には、関係のない他人の名前を名乗って(会いに行く)、という意味です。「見たい・知りたい」が転じて「会いたい」という意味になっています。