「子を思う情も、世を捨てんとすれば『ほだし』となる。愛深きゆえの、断ちがたき絆」
📖 意味と用法
ほだし は、人の自由な行動を妨げるものを指す名詞です。語源は、馬などの足に付けて動きを束縛する「足枷(ほだ)」であり、ネガティブなニュアンスで使われます。
- 足手まとい、邪魔なもの、束縛するもの: 広く、自由を妨げる人や物事を指します。
- (出家の妨げとなる)妻子や情愛: 特に、出家して仏道に専念しようとする際に、断ち切れない家族への情愛や俗世への未練を指す場合が非常に多いです。
仏教的な文脈、特に出家や遁世を考える場面で出てきた場合は、ほぼ②の意味と判断してよいでしょう。現代語の「絆」が持つポジティブな意味合いは全くありません。
「妻子や情愛」の例
さるべきほだしだにものせざらましかば、(源氏物語)
(しかるべき足手まとい(=子供)さえいらっしゃらなかったならば、)
「足手まとい」の例
世の中に、ほだし多かる人のみこそ、(徒然草)
(世の中には、足手まといが多い人ばかりが、)
📝 練習問題
傍線部の「ほだし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 千々のほだし、数知らず。(方丈記)
解説:
世俗の様々な束縛を指しています。「様々な足手まといは、数えきれない」という意味です。①の広い意味で使われています。
2. 子といふほだしのなかりせば、(伊勢物語)
解説:
「子という」と具体的に示されています。子供への愛情が出家の妨げになる、という文脈で使われることが多く、ここでは②の意味が最も適切です。
3. 世をのがれむと思へど、ほだしあれば、…(古今著聞集)
解説:
「世をのがれむ(出家しよう)」と思っても、という文脈です。出家を妨げるもの、すなわち「俗世への未練」や家族への情愛があるので、という意味になります。
4. 老いたる母、ほだしにて、…(大和物語)
解説:
年老いた母のことが心配で、自由に行動できない状況です。母の存在が「足手まとい」となって、という意味です。
5. ほだし絆を断ち、…(平家物語)
解説:
「ほだし絆」は「ほだし」を強調した言い方です。「(俗世の)しがらみ」や束縛を断ち切って、出家する場面で使われます。