4×5=12。

この式を見ると、誰もが「間違っている」と思うはずです。4×5の答えは20。これほど確かなこともありません。

ところが、この判断には、式のどこにも書かれていない前提が一つ潜んでいます。

「12」という数字の並びを、十進法で読むという前提です。

アリスの奇妙な九九と、後世の数学的な読み方

『不思議の国のアリス』の第2章で、アリスはこんな奇妙な九九を口にします。4×5の答えを十二、4×6の答えを十三と言い、4×7の途中で「こんな調子では二十に届かないわ!」と嘆くのです。

一見デタラメに思えるこの九九に、記数法(n進法)から鮮やかな説明を与えたのが、1952年のアレグザンダー・テイラーでした。

ただし、原文の twelve は、通常は「十二という数そのもの」を意味する言葉です。ここからご紹介するのは、それを数字の並び「12」として捉え直す、後世の数学的な読み方です。キャロル本人がこの仕掛けを意図していたと確認されているわけではありません。

その区別を踏まえたうえで、「実際に物が何個あるか」と「その個数をどう書き表すか」を、「箱に何個ずつ詰めるか」という身近な例に置き換えて眺め直してみましょう。

18個入りの箱なら、20個を「12」と書ける

私たちが普段使っている十進法は、「10個入りの箱」を使うルールです。「12」と書けば、「10個入りの箱が1つと、ばらの余りが2個(1×10+2=12)」という意味になります。

ここで、箱の大きさを10個入りから「18個入り」へ変えてみます(十八進法)。

いま、4×5の計算で、物が「20個」あるとします。これを、1箱に18個入る箱に詰めてみるとどうなるでしょうか。

  • 箱が1つできる。
  • 2個が余る。

この「箱1つ・余り2個」という状態を、十八進法では「12」と書き表します。十進法で計算すれば、1×18+2=20ですね。

つまり、4×5で得られる「20個」という量は少しも変わっていません。ただ、詰める箱の大きさを変えたことで、「4×5=12」という式が見事に成立するのです。

次の「4×6=13」では、箱の大きさも変わる

ですが、ここで納得してしまうと、次の式に足をすくわれます。アリスは、4×6を「13」と言っているからです。

4×6は、物の数でいえば24個です。18個入りの箱のままですと「箱1つと余り6個」ですから「16」になってしまい、「13」にはなりません。

では、どうすればよいのでしょうか。今度は、箱の大きさを「21個入り」に変えてみます(二十一進法)。

24個 = 21個入りの箱が1つ + 余り3個。

これなら、きれいに「13」と書くことができます。テイラーの読み解きでは、計算が一つ進むたびに、使う箱の大きさ(基数)を18個、21個、24個……と「3個ずつ」大きくしていくのです。

この規則に従って、アリスが途中で諦めてしまった4×7以降も続けて計算してみます。左側は実際の物の個数、右側は箱に詰めたときの表記です。

  • 4×5=20個 → 18個入りの箱で「12」(箱1つ・余り2個)
  • 4×6=24個 → 21個入りの箱で「13」(箱1つ・余り3個)
  • 4×7=28個 → 24個入りの箱で「14」(箱1つ・余り4個)
  • ……
  • 4×12=48個 → 39個入りの箱で「19」(箱1つ・余り9個)

紙の上には「12」「13」「14」……「19」と、見慣れた順番で数字が現れていきます。それなら、次こそいよいよ「20」になるはずですよね。

ところが、そうはならないのです。

「箱1つと余り10個」は、なぜ「1A」なのか

次の計算は、4×13=52個。使う箱は、さらに3個大きくなった「42個入り」の箱(四十二進法)になります。52個を42個入りの箱に詰めると、「箱が1つできて、10個が余る」ことになります。

ここで、表記の問題が初めて顔を出します。これまでの余りは2、3、4……9個でした。ですから、「箱1つと余り9個」なら、そのまま素直に「19」と書くことができました。

では、「箱1つと余り10個」は、一体どう書けばよいのでしょうか。

「1」と「10」をつなげて、「110」と書きたくなるかもしれません。しかし、数字を続けて並べてしまうと、一文字ずつが別の桁として読まれてしまいます。「110」では三桁の数になってしまい、「箱1つと余り10個」を正しく表せません。

かといって、「20」と書くこともできません。なぜなら、「20」とは「箱が2つ・余り0個」という意味だからです。42個入りの箱を2つ満たすためには、合計84個が必要になります。手元にある52個では、まるで足りないのです。

普段の十進法であれば、余りが10個になった瞬間に新しい箱が1つ完成し、上の位へ繰り上がります。しかし、いま使っているのは42個入りの箱です。42個集まるまで繰り上がりは起きないため、10個という余りは、まだ一の位に留めておく必要があります。

そこで必要になるのが、「十」という値を、一桁で表すための新しい記号です。その記号を、ここでは仮に「A」と決めてみます。Aは未知数ではなく、「十という値を表す一桁の数字」として使います。

すると、「箱1つと余り10個」は、「1A」と書くことができるのです。

1A = 1×42 + 十 = 52。

十という値を「1」と「0」の二桁に分けず、一つの桁にすっきりと収めるため、答えは「20」ではなく「1A」になります。

いつまで続けても「20」にならない理由

しかも、この規則を続ける限り、いつまで経っても「20」には届きません。

計算を一つ進めるたびに、実際の物の個数は「4個ずつ」増えていきます。一方で、1箱に入る個数は「3個ずつ」大きくなります。「20(箱2つ・余り0個)」と書くために必要な個数は、毎回「3個×2箱=6個ずつ」増えていくことになります。

  • 4×5:実際は20個 / 2箱分には36個必要(16個不足)
  • 4×6:実際は24個 / 2箱分には42個必要(18個不足)
  • 4×7:実際は28個 / 2箱分には48個必要(20個不足)

実際の物は4個ずつしか増えないのに、2箱を満たすハードルは6個ずつ上がっていってしまいます。足りない個数は16個、18個、20個……と開く一方であり、このルールを続ける限り、永遠に箱を2つ満たすことはできないのです。

二十個には、最初から到達していた

そしてここで、もう一つ奇妙な事実に気がつきます。

アリスが嘆いた「二十」という実際の個数には、一番最初の4×5(=20個)の時点で、とっくに到達しているのです。ただ、それを18個入りの箱に詰めたために、「12(箱1つ・余り2個)」と書かれたにすぎません。

「物が二十個あること」と、「そのつど使う箱を2つぴったり満たして『20』と書けること」は、まったく別の条件なのです。この二つをどちらも「20」という同じ見た目で捉えてしまうからこそ、不思議な混乱が生まれてしまいます。

同じ数を、違う数字の並びで表すことができる。同じ数字の並びが、違う数を表すこともある。

計算より前にある、数字を読むための約束

「4×5=12」の面白さは、計算がでたらめでもよくなることにはありません。十進法で読めば、この式は明確な誤りです。十八進法で読めば確かに成立します。そして、その説明を次の式にも使えると思った瞬間、今度は箱の大きさそのものが動き始めます。一定だと思っていた記号の読み方が、決して一定ではなかったのです。

私たちは計算式を見ると、答えの正しさを確かめているつもりになります。しかしその前に、「書かれた数字が何を意味しているか」という解釈を、ほとんど無意識のうちに済ませています。

アリスの奇妙な九九をこのように読み解いてみると、普段は見えないその無意識の一段階が、突然目の前に鮮やかに立ち現れてきます。

計算を始めるより前に、私たちはすでに、数字をどう読むかという見えない約束の中にいるのです。

出典・参考資料

  • Lewis Carroll, Alice’s Adventures in Wonderland, Chapter II, “The Pool of Tears”. Project Gutenbergで原文を読む。
  • Alexander L. Taylor, The White Knight: A Study of C. L. Dodgson (Lewis Carroll), Oliver & Boyd, 1952, p. 47. 書誌情報。

この記事は、テイラーによる記数法の解釈を「箱」のたとえで説明したものです。原文の言葉と数字の表記を区別し、キャロル本人の意図が証明された仕掛けとしては扱っていません。