5-1. 赤い絹のスカーフ

ある朝、いつものように早い時間に家を出て裁判所へ向かう途中、ガニマール警部は、目の前のペルゴレージ通りを歩いているある人物の不思議な行動に気がついた。

5-2. 赤い絹のスカーフ

最後の踊り場まで来ると、扉が開いているのを見つけた。彼は中に入って一瞬耳をすますと、争うような音を聞きつけ、その音がしていると思われる部屋に駆けつけた。

5-3. 赤い絹のスカーフ

「1599年10月17日、暖かく晴れた秋の日…僕の言っていることが分かるかい?でも、考えてみれば、アンリ四世の治世まで遡って、ポン・ヌフ橋[建築物]のことをすべて話す必要があるだろうか?

5-4. 赤い絹のスカーフ

―このことから、その男は競馬に興味があり、彼自身も馬に乗る(ということが分かる。)次に、彼はもみ合っている時に鎖の切れた片眼鏡の破片を拾い上げた。

5-5. 赤い絹のスカーフ

それに、ガニマールはそんなことを考えていなかった。ルパンは、奇妙で複雑な感情を警部に抱かせていた。その感情というのは、恐怖や憎悪、そして無意識ではあるが称賛によるものだった。

5-6. 赤い絹のスカーフ

「少なくともひとつ、使用人の供述から導き出された仮説があります。被害者は歌手としての才能よりもその容姿のために多くの名声を得ていましたが、2年前にロシアに行き、見事なサファイアを持ち帰ったのです。

5-7. 赤い絹のスカーフ

それ以上の抵抗は止め、彼は3段の階段を上っていった。アパートの扉は開いていた。証拠品には誰も手を触れていない。彼はそれをポケットに入れ、歩き出した。

5-8. 赤い絹のスカーフ

ガニマールが最後まで言葉を言い終える暇はなかった。もの影から男たちが現われるのを見て、プレヴァイユはすばやく壁際に退き、シャッターが閉まっている一階の店の扉を背にして、敵と向かい合った。

5-9. 赤い絹のスカーフ

ガニマールは、捜し回った。新たな捜査にへとへとになりながらも、最初から最後まで捜査をやり直した。ベルヌ通りの謎をあれこれと考えて眠れない夜を過ごし、プレヴェイユの生活記録を調べ、

5-10. 赤い絹のスカーフ

警部は嬉しさに身震いした。五本の指の跡と手のひらの跡がはっきりと見てとれた。申し分のない証拠だった。

5-11. 赤い絹のスカーフ

警部はドア[目的]に到着した。ルパンが背を向けた一瞬の隙をついて、ガニマールはいきなり向きを変えドアの取っ手を掴んだ。しかし、彼の口から「ちくしょう」という罵り声が漏れた。取っ手はびくともしなかった。