『若草物語』英文/和訳【1-1. 巡礼ごっこ】

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翻訳者:中務秀典

原文
音声

“Christmas won’t be Christmas without any presents,” grumbled Jo, lying on the rug.

「クリスマスなのにプレゼントがないなんて、クリスマスじゃないわ 」と、じゅうたんの上に寝そべってジョーはぶつぶつと不平を言った。

“It’s so dreadful[つまらない] to be poor!” sighed Meg, looking down at her old dress.

「貧乏って本当に嫌ね!」とメグはため息をつき、彼女の古いドレスを見おろした。

“I don’t think it’s fair for some girls to have plenty of pretty things, and other girls nothing at all,” added little Amy, with an injured sniff.

「可愛いものをたくさん持っている女の子もいれば、何も持っていない女の子もいるというのは不公平だと思うわ」と小さなエイミーは機嫌悪そうに鼻を鳴らしながら付け加えた。

“We’ve got Father and Mother, and each other,” said Beth contentedly from her corner.

「私たちにはお父さまとお母さま、そして私たち(姉妹)がいるわ」と、ベスは自分のいるから満足そうに言った。

The four young faces on which the firelight[炉火の光] shone[輝き] brightened at the cheerful words, but darkened again as Jo said sadly,

暖炉の火に照らされた四人の若者の顔は、陽気な言葉で明るくなりましたが、ジョーが悲しそうに言うと、また暗くなってしまった。

“We haven’t got Father, and shall not have him for a long time.”

「私たちのお家にお父さまはいないじゃない。(たぶん、これから先も)ずっと長い間、お父さまには会えないと思うわ」

She didn’t say “perhaps never,” but each silently added it, thinking of Father far away, where the fighting was.

彼女は「おそらく決して」とは言わなかったが、それぞれが無言で(心の中で)それを付け加えた。遠く離れた戦場にいる父を思いながら。

Nobody spoke for a minute; then Meg said in an altered tone,

誰もしばらくは話さなかったが、その後メグが、調子を変えて言った。

“You know the reason Mother proposed not having any presents this Christmas was because it is going to be a hard winter for everyone;

「今年のクリスマスはプレゼントをやめようとお母さまが提案された理由は、みんなにとって大変な冬になりそうだからだと知っているでしょう。

and she thinks we ought not to spend money for pleasure,[愉しみ] when our men are suffering so in the army.

お母さまは、軍隊で兵隊さんたちが苦しんでいる時に娯楽のために金を使うべきではないと考えているのよ。

We can’t do much, but we can make our little sacrifices, and ought to do it gladly.

私たちには多くのことはできないけど、私たちは小さな犠牲を払うことができるし、喜んでそれを行うべきなのよ。

But I am afraid I don’t,”[私は私がしないことを恐れている] and Meg shook her head, as she thought regretfully of all the pretty things she wanted.

でも、私にできるかしら 」と彼女は欲しかったすべてのきれいなものにまだ未練があるように、メグは頭をふった。

“But I don’t think the little we should spend would do any good.

「でも、私たちのわずかなお金を使ったとしてもあまり役には立たないと思うわ。

We’ve each got a dollar, and the army wouldn’t be much helped by our giving that.

私たちはそれぞれ1ドルずつ持っているけど、それを差し出したところで軍隊が大して助かるわけじゃないでしょう。

I agree not to expect anything from Mother or you, but I do want to buy Undine and Sintran for myself.

お母さまにもあなたたちにも何も期待しないことには同意するけど、自分のためにウンディーネ(水妖記)ジントラム(ジントラムの道連れ)を買いたいな。

I’ve wanted it so long,” said Jo, who was a bookworm.

ずっと前から欲しかったんですもの」と、本の虫だったジョーは言った。

“I planned to spend mine in new music,” said Beth, with a little sigh, which no one heard but the hearth brush and kettle-holder.

「私は自分のお金を新しい楽譜に使うつもりだったの」 ベスは小さなため息をつきながら言いましたが、炉床ブラシと鍋つかみ以外は誰にも聞こえてなかった。

“I shall get a nice box of Faber’s drawing pencils; I really need them,” said Amy decidedly.

「ファーバーの色鉛筆の箱を買いたいわ。本当に必要なの」とエイミーは断固として言った。

“Mother didn’t say anything about our money, and she won’t wish us to give up everything.

「お母さまは私たちのお金のことは何も言わなかったし、私たちにすべてを手放してしまうことを望んでいるわけではないでしょう。

Let’s each buy what we want, and have a little fun;

それぞれが欲しいものを買って、少しずつ楽しみましょう。

I’m sure we work hard enough to earn it,” cried Jo, examining the heels of her shoes in a gentlemanly manner.[態度]

私たちはそのお金を稼ぐために十分なぐらい努力して働いているはずだもの」と、ジョーは男のような恰好で靴のかかと調べながら言った。

“I know I do[自分でもよく分かっている]—teaching those tiresome children nearly all day, when I’m longing to enjoy myself at home,” began Meg, in the complaining tone again.

「その通りね。(私は)家で楽しく過ごしたいと思っているのに、退屈な子供たちにほぼ一日中教えているのよ」メグはまた不満そうな口調で(文句を言い)始めた。

“You don’t have half such a hard time as I do,” said Jo.

「姉さん[あなた]のなんて私の半分も苦労していないわ」とジョーは言った。

“How would you like to be shut up for hours with a nervous, fussy old lady,

「神経質で小うるさい老婦人と何時間も一緒でどうやって黙っていられるというの。

who keeps you trotting, is never satisfied, and worries you till you’re ready to fly out the window or cry?”

「(用事を言いつけて、あちこち)走らせ続け、それでも決して満足しないんですもの。窓から飛び降りたり泣き出したくなるまで(老婦人は)悩ますのよ。

“It’s naughty to fret, but I do think washing dishes and keeping things tidy is the worst work in the world.

「イライラするのはいけないことだと思うけど、皿洗いお片付けは世界で一番嫌な仕事だと思うの。

It makes me cross, and my hands get so stiff,[硬くなって] I can’t practice well at all.”

怒りっぽくなってしまうし、手がこわばってしまって、全然うまく練習できなくなってしまうんですもの」

And Beth looked at her rough hands with a sigh that any one could hear that time.

そしてベスは、今度は誰にでも聞こえるようなため息をつきながら、荒れた手を見つめた。

“I don’t believe any of you suffer as I do,”[私と同じくらいの] cried Amy,

「私ほど(嫌な)思いをしている人はいないと思うわ」とエイミーは叫んだ。

“for you don’t have to go to school with impertinent girls, who plague you if you don’t know your lessons, and laugh at your dresses,

「だって、あなたたちは生意気な女の子たちと一緒の学校に行ったりしなくていいんだもの。彼女たちは、授業の内容が分からないからと悩ませたり、ドレスを笑ったり、

and label your father if he isn’t rich, and insult you when your nose isn’t nice.”

「お父さまが金持ちでないとはり札を貼り、鼻の恰好が悪いからと侮辱するんですもの。

“If you mean libel, I’d say so, and not talk about labels, as if Papa was a pickle bottle,” advised Jo, laughing.

「侮辱という意味ならそうだろうけど、はり札を貼るなんて言わないでよ。まるでお父さまが漬物の瓶みたいじゃないの」とジョーはアドバイスして笑った。

“I know what I mean, and you needn’t be statirical[satirical] about it.

「分かっているわよ。そんなに皮肉[風刺的な]を言わなくてもいいわ。

It’s proper[適切] to use good words, and improve[進歩させる] your vocabilary,” returned Amy, with dignity.

良い言葉を使って、語彙を上達させるのはいいことでしょう」と、威厳を持ってエイミーは言い返した。

“Don’t peck at one another,[お互いに突っかかってはいけない] children.

「あなたたち、言い合いはやめなさい。

Don’t you wish we had the money Papa lost when we were little, Jo?

私たちが子供の頃にお父様が失くされたお金があったらよかったと思わない。ジョー?

Dear me! How happy and good we’d be, if we had no worries!” said Meg, who could remember better times.

あぁ、心配事が何もなかったら、どんなに幸せで良いことでしょう!」と豊かだったころのことを覚えているメグは言った。

“You said the other day you thought we were a deal happier than the King children,

「このあいだ、姉さんは私達はキングさんところの子供達よりずっと幸せだと思ってるって言ってたじゃない。

for they were fighting and fretting all the time, in spite of[~にもかかわらず] their money.”

というのも、あの子たちはお金を持っていても、いつも喧嘩したりいらいらしたりばかりしているからって」

“So I did, Beth. Well, I think we are.

「ええ、言ったわよ、ベス。だって、そう思うもの。

For though we do have to work, we make fun of ourselves, and are a pretty jolly set, as Jo would say.”

(というのも)仕事はしなくちゃいけないけど、私たちは自分たちをネタにして楽しむことができるし、ジョーが言うようにとても陽気な仲間ですもの」

“Jo does[強調のdoes] use such slang words!” observed Amy, with a reproving look at the long figure stretched on the rug.

「ジョーったらそんな俗な言葉を使って!」と、絨毯の上にながながと手足を伸ばしている姿をエイミーはとがめるような顔つきで言った。

Jo immediately sat up, put her hands in her pockets, and began to whistle.

ジョーはすぐに起き上がり[寝た姿勢から起き上がって座った姿勢になる]ポケットに手を入れ、口笛を吹き始めた。

“Don’t, Jo. It’s so boyish!”

「やめてジョー。そんな男の子みたいなマネは!」

“That’s why I do it.”

「だからやっているのよ」

“I detest rude,[野蛮な] unladylike girls!”

「私、失礼で女の子らしくない女の子は大嫌い!」

“I hate affected,[気障な] niminy-piminy[すました] chits!”[子供]

「私は気取って、上品ぶった小娘が嫌い!」

“Birds in their little nests agree,” sang Beth, the peacemaker, with such a funny face

「せまいにいる鳥たちは仲がよい」と、仲裁人のベスがおどけた顔をして歌うと、

that both sharp voices softened to a laugh, and the “pecking” ended for that time.

ふたりのとげとげしい声やわらいで笑い声になり、『突っつきあい 』はそこまでとなった。

“Really, girls, you are both to be blamed,”[責任がある] said Meg, beginning to lecture[説諭] in her elder-sisterly fashion.

「まったく、あなたたちはふたりとも悪いわよ」メグは、姉らしく小言を始めた。

“You are old enough to leave off boyish tricks, and to behave better, Josephine.

「あなたはもう子供じみたいたずらはやめていい年だし、もっと行儀よくしなさい、ジョセフィン。

It didn’t matter so much when you were a little girl,

小さい頃はそんなに気にならなかったけど、

but now you are so tall, and turn up your hair, you should remember that you are a young lady.”

でも今は背が高くて、髪も結い上げている、若い淑女だということを忘れないで」

“I’m not! And if turning up my hair makes me one, I’ll wear it in two tails till I’m twenty,” cried Jo,

「私は違うわ。もし髪を結い上げたら若い淑女だというのなら、二十歳まではおさげにしておくわ」とジョーは叫び、

pulling off her net, and shaking down a chestnut mane.

ネットをもぎ取って栗色の長い髪振り下ろした。

“I hate to think I’ve got to grow up, and be Miss March, and wear long gowns, and look as prim[いやに上品ぶる] as a China Aster!

「大人になって、ミス・マーチになって、ロング・ガウンを着て、エゾギクみたいにつんとすますなんて考えたくないわ。

It’s bad enough to be a girl, anyway, when I like boy’s games and work and manners![行儀]

とにかく、私、自分が女なのが本当に残念だもの。遊びとか仕事とか仕草だって、私は男の子のようにするのが好きなのに。

I can’t get over[~を克服できない] my disappointment[失望] in not being a boy. And it’s worse than ever now, for I’m dying to go and fight with Papa.

私は男の子でないことが残念でしょうがないの。そしてそれはこれまでにないほど悪化しているわ。パパと戦いに行きたくてたまらないんだもの。

And I can only stay home and knit, like a poky old woman!”

それなのに、私は家にこもって元気のない年寄りみたいに編み物をすることしかできないんだもの!」

And Jo shook the blue army sock till the needles rattled like castanets, and her ball bounded across the room.

そして、ジョーは編み物針がカスタネットのようにガタガタと音を立てるぐらい青い軍人用の靴下を振ったので、毛糸玉は跳ねかえり部屋を横切った。

“Poor Jo! It’s too bad, but it can’t be helped.

「かわいそうなジョー!かわいそうだけどしょうがないよね。

So you must try to be contented[満足するよう努める] with making your name boyish, and playing brother to us girls,” said Beth,

(せめて)自分の名前を男の子っぽくして、私たち姉妹の兄弟のように振る舞うことで我慢するしかないわ」 とベスは言った。

stroking the rough head with a hand that all the dish washing and dusting in the world[世界中の] could not make ungentle in its touch.[手触りをやさしくならなくすることはできない]

手でぼさぼさの頭を撫でながら。ベスの手はどんなに食器洗いや雑巾がけをしても、やさしい手触りのままだった。