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翻訳者:中務秀典
名作『宝島』で英単語や英熟語を覚えることができる
ABOUT noon I stopped at the captain’s door with some cooling drinks and medicines. [内服薬]
昼ごろ、僕はキャプテンのところに立ち寄って、冷たい飲み物と薬をもって行った。
He was lying very much as we had left him, only a little higher, and he seemed both weak and excited.
やつは僕たちが置いていったときと同じく完全に横たわり、ほんの少しだけ体をおこしていたけど、弱々しく同時に興奮しているように見えた。
Jim, he said, “you’re the only one here that’s worth anything,[いくらか価値がある] and you know I’ve been always good to you.
ジム、やつは言った、 「ここで見どころがあるのはおまえだけだ。俺はいつもおまえに良くしてやってきただろう。
Never a month but[never … but …すれは必ず~する] I’ve given you a silver fourpenny for yourself. And now you see, mate, I’m pretty low, and deserted by all;
お前のために四銀貨をやらなかった月は一度もないだろう。それで今、俺は、友よ、すっかり弱ってしまって、みんなから見捨てられてるんだ。
and Jim, you’ll bring me one noggin[ちいさなコップ] of rum, now, won’t you, matey?”
ジム、ラム酒を一杯持ってきてくれないか、相棒?」
The doctor– I began. But he broke in[(会話などに)口をはさむ] cursing the doctor, in a feeble voice but heartily.[熱心に]
ドクターが…僕は言いかけた。しかし、やつは弱々しい声だが、激しくドクターを罵り始めた。(割り込んできた)
“Doctors is all swabs,[のろま, 不器用なもの]“ he said; “and that doctor there, why, what do he know about seafaring men?
「医者なんてものはみんなまぬけさ」やつは言った。「それに、あの医者が、(なぜ)、船乗りの男のなにを知っているというんだ?」
I been in places hot as pitch,[真っ黒の] and mates dropping round with Yellow Jack,
俺は灼熱の地にいたこともあるし、仲間は黄熱病でばたばたと倒れていった。
and the blessed land[神の祝福を受けた地] a-heaving like the sea with earthquakes-–what to the doctor know of lands like that?
それに、あの呪われた地は、地震で海の上のように波打【つ】っていた…。そんな土地のなにをあの医者が知っているというんだ?
–and I lived on rum, I tell you.
言っておくが、俺はラム(を飲んで)で生きてきたんだぞ。
It’s been meat and drink, and man and wife, to me;
肉と酒は夫婦みたいなものさ、俺にとってはな。
and if I’m not to have my rum now I’m a poor old hulk on a lee[風下の] shore,
もし、いまラム酒が飲めないってなら、俺は風の当たらない海岸に打ち上げられたみじめな老廃船のようなものだ。
my blood’ll be on you,[俺の血がお前を襲うぞ] Jim, and that doctor swab”; and he ran on[長々と続く] again for a while with curses.
お前を祟ってやるぞ、ジム、あとあの馬鹿医者もだ」再びやつの呪いの言葉がしばらく切れ目なく続いたが、
Look, Jim, how my fingers fidges,[fidget] he continued in the pleading tone.
見ろよ、ジム、俺の指の震えを。やつは嘆願するような口調で続けた。
“I can’t keep ‘em[them] still,[静止させて] not I. I haven’t had a drop[一杯引っかける] this blessed day.
「じっとさせておけないんだ。こんな呪われた日に一滴も飲んでないんだぞ。
That doctor’s a fool, I tell you.
あの医者はばかだよ。言っておく。
If I don’t have a drain o’ rum, Jim, I’ll have the horrors; I seen some on ‘em already.
ラムを一杯ぐいと飲み干さなければ、ジム、俺は手に負えなくなるぞ。俺にはもう見えてきている。
I seen old Flint in the corner there, behind you; as plain as print, I seen him;
俺にはフリントがあそこの角にいるのが見えた。おまえの後ろにな。印刷したみたいにはっきりと、俺にはやつが見えたんだ。
and if I get the horrors, I’m a man that has lived rough, and I’ll raise Cain.[怒って暴れる]
こんな恐怖にかかっては、俺は乱暴に生きてきた男なんだから、大騒ぎをすることになるぞ。
Your doctor hisself said one glass wouldn’t hurt[害する] me. I’ll give you a golden guinea for a noggin,[少量] Jim. “
おまえの医者(自身)も言っていたじゃないか。一杯なら身体に害はないってな。ほんのちょっとでいいんだ、ギニ金貨を一枚やるぞ、ジム」
He was growing more and more excited, and this alarmed[不安を感じさせる] me for my father,
やつはますます興奮してきて、それは僕に父のことを心配にさせた。
who was very low that day and needed quiet;
父はその日とても体調が悪く、安静にしている必要があったからだ。
besides, I was reassured[再保証する] by the doctor’s words, now quoted[引用する] to me, and rather offended by[感情を害する] the offer of a bribe.
それに、いまやつが引き合いに出した(一杯なら身体に害はないという)ドクターの言葉もあったことだと安心していた。ただ、賄賂の申し出には幾分か腹を立てた。
I want none of your money, said I, “but what you owe my father. I’ll get you one glass, and no more.”
あんたのお金なんていらないと僕は言って、「でも、僕の父に(店の飲み食いの)借りがあるだろう。一杯だけもってくるよ。それ以上はだめだよ」
When I brought it to him, he seized it greedily and drank it out. “Aye, aye,” said he, “that’s some better, sure enough. [はたして, 本当に]
僕がそれをやつのところにもって行くと、やつはそれをがつがつと乱暴につかんで飲み干した。「あぁ、少しはマシになった。一息ついたぜ」とやつは言った。
And now, matey, did that doctor say how long I was to lie here in this old berth?”
「さて、相棒、あの医者は、俺にどのくらいここに、この古い寝台で横たわっていろと言ったんだ?」
A week at least, said I.
最低でも一週間、と僕は答えた。
“Thunder!” he cried. “A week! I can’t do that; they’d have the black spot on me by then.
「ばかをいうな!」とやつは怒鳴った。「一週間! 俺は、そんなことができるか。それまでにやつらは俺に黒点を突きつけてくる。
The lubbers is going about to get the wind of me this blessed moment;
いまこの(祝福された)瞬間にも、まぬけどもがおれのうわさを嗅ぎつけて歩き回っている。
lubbers as couldn’t keep what they got, and want to nail[つかまえる,取り押さえる] what is another’s.
手に入れたものすら管理できないくせに、他人のものを取ろうと思っているまぬけども。
Is that seamanly behaviour, now, I want to know? But I’m a saving soul.
それが船乗りらしいふるまいかい、知りたいもんだよ。だが、俺は節約家なんだよ。
I never wasted good money of mine, nor lost it neither; and I’ll trick ‘em again.
俺は自分の大事な金を無駄にしたこともなければ、それを失ったこともない。もう一度あいつらをだましてやる。
I’m not afraid on ‘em[them]. I’ll shake out another reef, matey, and daddle ‘em again.”
あいつらなんか恐くはない。俺はもう一度帆を振り拡げ、いいか相棒、またあいつらをまいてやる」
As he was thus[このように] speaking, he had risen from bed with great difficulty,
こう言いながら、やつはやっとのことでベッドから起き上がり、
holding to my shoulder with a grip that almost made me cry out, and moving his legs like so much dead weight.
悲鳴をあげそうになるほどの握力で僕の肩につかまったが、足の動きはどっしりと重【い】そうだった。
His words, spirited as they were in meaning,[意味においては] contrasted sadly with[~と対照して見ると] the weakness of the voice in which they were uttered.
やつ言葉の内容は威勢はよかったが、発せられた声は弱々しく、対照的で哀れだった。
He paused when he had got into[~の状態になる] a sitting position on the edge.
やつは(ベッドの)端に座った状態で一息ついた。
“That doctor’s done me,” he murmured. “My ears is singing. Lay me back.”
「あの医者にやられた」と彼はつぶやいた。「耳鳴りがする。寝かせてくれ」
Before I could do much to help him he had fallen back again to his former place, where he lay for a while silent.
やつは僕が助けるより前に、元の場所に再び倒れこんでしまい、しばらく静かに横たわっていた。
Jim, he said at length, “you saw that seafaring man today?”
「ジム」ようやくやつは口をきいた。「今日あの船乗りを見ただろう?」
“Black Dog?” I asked. “Ah! Black Dog,” says he.
「ブラック・ドッグ?」と僕は尋ねた。「ああ!ブラック・ドッグだ」とやつは言う。
“HE’S a bad un; but there’s worse that put him on.[人を(だまして)かつぐ]
「あいつは悪いやつだ。だがあいつを焚き付けたもっと悪いやつがいるんだ。
Now, if I can’t get away nohow, and they tip me the black spot, mind you, it’s my old sea-chest they’re after;
もし俺がどうやっても逃げられなくて、やつらが俺に黒点をつけてきたら、いいかよく聴いておけよ、やつらが追っているのは俺の古い船乗りの衣装箱なんだ。
you get on a horse–you can, can’t you?
おまえは馬に乗って、乗れるんだろう?
Well, then, you get on a horse, and go to– well, yes, I will!
じゃあ、馬に乗って、そうだな、行くんだよ、そう、そうしよう。
–to that eternal[永遠の] doctor swab, and tell him to pipe all hands[全員, 総員]
あのどうしようもないぼんくら医者のところに行って、人手を集める[呼び子で呼ぶ]ように言うんだ。
—magistrates and sich–and he’ll lay ‘em aboard at the Admiral Benbow
判事とかそんなやつらをだ。このベンボウ提督亭に乗り込んでいくように仕掛けろとな。
–all old Flint’s crew, man and boy,[少年時代からずっと] all on ‘em that’s left.
やつらはみんな(海賊)フリントの乗組員、子飼いの、残党たちだ。
I was first mate, I was, old Flint’s first mate, and I’m the on’y one as knows the place.
俺は一等航海士だったんだ、俺はな、フリントの船で一等航海士だったから、俺だけがあの場所を知っているのさ。
He gave it me at Savannah, when he lay a-dying, like as if I was to now, you see.
フリントがサバンナで俺にくれたのさ。死にそうになって横たわっていた時にな、まるで今の俺みたいにな。
But you won’t peach unless they get the black spot on me,
だが、やつらが俺に黒点をつけるまでは告げ口するんじゃないぞ。
nor unless you see that Black Dog again or a seafaring man with one leg, Jim–him above all.”
あるいは、もう一度ブラック・ドッグを見かけるか、片足の船乗りを見つけるまでは、ジム、何よりもやつを見つけてからだ」
“But what is the black spot, captain?” I asked.
「でも、いったい黒点ってなんなの、キャプテン?」と、僕は尋ねた。
That’s a summons, mate.
呼び出し状だよ、相棒。
I’ll tell you if they get that. But you keep your weather-eye open,[警戒を怠らない] Jim, and I’ll share with you equals, upon my honour.
やつらがそれをもってきたら教えてやるさ。だが、ジム、よく見張っていろよ。そうすれば、おまえと山分けだ。誓ってもいい。
He wandered a little longer, his voice growing weaker;
いましばらくとりとめのない話が続き[話が本題などから横道へそれる]、やつの声はだんだんと弱々しくなっていった。
but soon after I had given him his medicine, which he took like a child, with the remark,[意見,批評]
だけど、僕が薬を与えるとすぐに、やつは子供のように薬を飲み、こう言った。
“If ever a seaman wanted drugs, it’s me,” he fell at last into a heavy, swoon-like sleep, in which I left him.
「薬を欲しがる船乗りがいたとしら、俺ぐらいのもんだな」やつはとうとう、気絶したように深い眠りについたので、僕はやつをそこに置き去りにして(部屋を出た)
What I should have done had all gone well[すべてがうまくいっていた] I do not know.
その後、何事もなかったとして、僕には何をすべきだったかは分からない。
Probably I should have told the whole story to the doctor,
たぶん、ドクターにすべて(の話)を話すべきだったと思う。
for I was in mortal fear lest[~しはすまいかと] the captain should repent of his confessions and make an end of me.
というのは、キャプテンが自分の告白を後悔して、僕を始末しようとするのではないかと、死ぬほど不安だったからです。
But as things fell out, my poor father died quite suddenly that evening, which put all other matters on one side.
しかし、結局のところ、その晩、僕のかわいそうな父が突然に死んでしまい、そのこと以外は全部隅っこに追いやられ[一時中止する]てしまった。
Our natural[血縁, 親と子の関係] distress, the visits of the neighbours, the arranging of the funeral,
僕たち家族は悲しみにくれ、近所の人たちが訪れ、葬儀を手配したり、
and all the work of the inn to be carried on in the meanwhile kept me so busy
さらに、その間も宿(のすべての仕事)は続いていたので、僕は(宿の仕事に追われて)とても忙しく、
that I had scarcely time to think of the captain, far less to be afraid of him.
キャプテンのことを考える時間などほとんどなく、まして、やつのことを恐れる余裕なんてさらになかった。